佐藤 和弘

Mar 32 min

スタッフとの信頼関係を大切にしながらも、その信頼関係にこだわりすぎない

同じムラ(組織)で生活をともにする以上、スタッフ間での信頼関係は大切です。誰しも毎日を穏やかに過ごしたいでしょうから、「この人は私を裏切らない」「この人は私をわかってくれている」「この人なら心を許せる」といった信頼関係のあるスタッフと一緒に毎日の業務を行いたいはずです。

ただ、同じムラの住民でも、特に組織変革を担うリーダーの立場だと、この信頼関係というのは悩ましいジレンマだと言えます。というのも、「スタッフの求めること」と「スタッフのためになること」は同じとは限らないですし、「スタッフの求めること」と「組織としてすべきこと」も同じとは限らないからです。

例えば、ある業務でこれまで長年続けていたやり方を、時代や環境変化に適応するために新たなやり方に変更しようとしたとします。ただ、従来のやり方に強いこだわりと自信を持って業務を行ってきたスタッフAさんにとってみれば、その業務のやり方を変えるということは、自分の存在意義を否定されたような思いを抱いてしまうかもしれません。

「これまで私が長年頑張ってやってきたことは何だったの・・・?」

もちろん、変革リーダー自身にAさんの存在意義を否定するような意図はなかったとしても、Aさん自身がそう受けとってしまえば(意味づけてしまえば)、本人にとってそれが真実になってしまいます。もし、そのような背景があるなかで、変革リーダーが新たな業務のやり方の導入を推し通そうとすると、

「◯◯さんは私のことをわかってくれていない!」

と変革リーダーとAさんの信頼関係が崩れてしまいかねません。しかし、新たな業務を導入することが結果的にAさんのためになり、組織として行うべきことであり、もちろん患者さんのためになることなのであれば、少なくとも一時的にAさんとの信頼関係を崩したとしても、推し進めなければなりません。したがって、

「あの時は、私のことを考えてくれていないと正直落胆したんです。でも、今なら◯◯さんの言っていたことの意味がわかります」

といったように、長い伏線回収を行うことができるように、リーダーには、スタッフとの信頼関係を大切にしながらも、その信頼関係にこだわりすぎない絶妙なバランス感覚が求められます。