エビデンスの両面性
- 佐藤 和弘
- May 28
- 2 min read
医療に限らず、世間では「エビデンス」という言葉が一般的な言葉になってきていますが、エビデンスという言葉には「両面性」があると考えています。それは、
「本来、エビデンスは思考のバイアス(思い込み)から抜け出すために用いるものであるはずなのに、エビデンスの用い方によっては、逆に思考のバイアスに囚われてしまいかねない」
という両面性です。
例えば、「◯◯の研究では、◯◯疾患の患者さんに対して、治療法Aよりも治療法Bのほうが優れていることがわかっています」といった主張があったとします。すると、それを聞いた側にとってみれば、研究を行ってまで得られたその結果に対して、余程の根拠や独自の主張がない限り、「治療法Bのほうが優れている」ことを前提に議論を行っていくはずです。
ただ、ここで大事なことは、「平均的な視点」と「個別的な視点」を意図的に分けて考えることです。これは、たとえ「◯◯疾患の患者さん」という平均的な視点で治療法Bが優れていることがわかったとしても、それが目の前の「患者Cさん」にも個別的な視点で当てはまるかどうかは、あくまでも別問題としてとらえることを意味します。
この「平均的な視点」と「個別的な視点」を分けてとらえず、前者に過度に依存してしまうと、実はCさんにおいては、治療法Bよりも治療法Aのほうが優れているにも関わらず、「◯◯の研究結果」を基に、治療法Bが選択されてしまうかもしれません。
これが、「エビデンスの用い方によっては、逆に思考のバイアスに囚われてしまいかねない」というジレンマです。
もちろん、だからといってエビデンスに基づく意思決定が重要であることに変わりはありません。ただ、エビデンスはあくまでも平均的な視点における答えであって、それと個別的な視点における答えとは必ずしも一致しないということを前提として考えておく姿勢が求められると言えます。
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