例えば、ある治療における新しい評価手法を学会で学んできたとします。その評価手法は、従来の評価手法に比べてより正しく治療の評価ができることが期待できますが、その分、通常よりも煩雑な手順が必要になり、スタッフの実務的な負担が増えることが予想されました。
そのうえで、新しい評価手法を実際に自組織の業務に取り入れようとするならば、
新しい評価手法を取り入れる効果>スタッフの実務的な負担
ということについて、スタッフに理解・納得してもらうことが求められます。ただ、このように概念として説明するのは簡単ですが、実際には、
「そもそも、新しい評価手法について、いまいちよく分かりません」
「その新しい評価手法が良さそうなことは分かりましたが、ただでさえ今の業務のやり方でも手一杯なので、新しいやり方を取り入れる余裕はありません」
「従来の評価手法でも別に不都合があるわけではないので、今のままでいいんじゃないでしょうか?」
といったように、他のスタッフの反発が起こることも予想されます。スタッフにとってみれば、(まだよく分からない)新しい評価手法を取り入れる効果よりも、実務的な負担のほうが自分のことだけに実感しやすいからです。このことから言えるのは、
「ノンテクニカルスキルは、組織のスタッフを動かすことによって、テクニカルスキルを患者さんまで届ける力である」
ということです。これは言い方を変えれば、
「ノンテクニカルスキルは、テクニカルスキルに対するトランスポートスキルである」
ととらえることもできます。
「ノンテクニカルスキルを発揮できなかったがゆえに、実務でテクニカルスキルを発揮する機会を得られなかった」
と言えるような悔しい思いをした経験がある人は、さまざまな現場にいるのではないかと思います。発揮する機会を失った、まだ自分の中だけにあるテクニカルスキル。そのテクニカルスキルを(組織全体で)発揮する機会を与えるのが、やはり自分の中にあるノンテクニカルスキルであるならば、医療者という専門職としてノンテクニカルスキル(非専門技術)を学ぶことの意義を理解・納得しやすいのではないかと思います。
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