• 佐藤 和弘

ビジョンの実現は最後は「個」の勝負

人が組織で医療を提供し続ける以上、そこに「誰もが正しいと思うことができない」「誰もが間違っていると思うことをやらざるを得ない」といった、誰も望まない不合理な結果を導いてしまう空気が存在し続ける。だから、いくら医療者一人ひとりが学習と成長に努力しても意味がない。それどころか、努力すればするほど、組織の空気が持つ排除の論理の力が増大し、本当に頑張っているスタッフから排除されていく。


組織の空気の支配の恐ろしさを学ばないリーダーは、この個人の学習と成長の限界を知らずに、スタッフを自己学習と自己成長の世界へと誘う。結果、不幸なスタッフが組織の中で増えていく。まず推進派スタッフが組織に幻滅して辞めていく。その結末を見ていた慎重派スタッフが、推進派の真似をしても報われない、だったら抵抗派の真似をしておいたほうがましだと、抵抗派の仮面を被り沈黙という同調をする。その結果、抵抗派スタッフにとって住み心地の良い「現状満足ムラ」の出来上がりである。


このようにならないために、リーダーは組織変革と空気のマネジメントを誰よりも率先して学ばなければならない。だが、この空気のマネジメントですら、推進派を邪魔している現状満足の空気を取り除く、いわばビジョンに向けた下準備に過ぎない。そして、現状満足の空気から変化に適応する空気に組織を変えてからむかえる本番は、結局スタッフ(推進派と慎重派)一人ひとりの「個」の勝負になるのである。


スタッフが「個」の専門職として、「この分野だけは誰にも負けない!」と言えるくらいの専門技術(テクニカルスキル)を、何千時間もトレーニングに費やし徹底的に鍛えてつくりあげる。それは、「◯◯(職種)だからこの専門技術」「最近話題の◯◯という専門技術」といった、すでに世の中で知られている程度の専門技術ではなく、既存知と既存知をかけ合わせた、世の中にない専門技術にまで昇華された、持続的な競争優位性につながる圧倒的な強みを意味する。


ここからが本当の意味の勝負なのだが、まだ世間は下準備すらできていない、単なる個人の学習と成長のレベルで止まっている。だから早く、組織変革と空気のマネジメントのレベルに向かい下準備を終え、本当の意味の「個」の勝負のレベルに到達しなければならない。

© 2013 by Kazuhiro Sato