「本当は私は違う意見なんだけど、それを言っちゃうと◯◯さんのことを批判しているように受け取られてしまうかもしれないから、黙っておこう」
「本当は私はその業務ができるけど、それを言っちゃうと業務量が増えて大変になるから、できないふりをしておこう」
このように、実は有能な人であっても、あえて無能であるかのように演じることによって自分を守ろうとする。これは、言わば「戦略的無能化」と呼べますが、特に、現状満足の空気に支配された組織において、本来は推進派にあたるはずのスタッフに陥りがちなのではないでしょうか。
読んで字の如く、戦いを略するために、自分が無能であるように演じることができるというのは、その意味でも有能であると言えます。しかし、せっかくある物事を成し遂げる能力を持っているのに、それを押し隠さなければならないのであれば、それは組織変革の観点から見れば、とても勿体無いことです。 そして何より、本当は有能であるスタッフが、自分を無能であるかのように演じなければならないというのは、頭では理解していてもどこか納得しきれない、モヤモヤ感が残りやすいのではないでしょうか。
だからこそ、リーダーからすると、いかにスタッフに戦略的無能化という選択をしなくていい環境をつくっていくかが重要になってきますが、ポイントは「他スタッフからの反発」と「不公平な業務の増加」にあると言えます。
前者に関しては、「Aさんが・・・」ではなく「Aさんがやっているような『業務』は・・・」「Aさんの取ったような『行動』は・・・」といったように、普段から「人と行為を切り分ける」空気をつくっておくことが重要であると考えています。ある主張をした際に他スタッフから反発を受けるのは、そのスタッフにとってみれば、自分自身を批判された(人格否定された)と受け取ってしまうからかもしれません。であれば、その人(人格)とその人がやっている行為(業務や行動)を意図的に分けてとらえることによって、その主張の矛先はあくまでも、人格ではなく業務や行動に向いているということを明確に示していく。このような体験を組織全体で継続的に増やしていくことによって、
あるスタッフの主張≠別のスタッフへの批判
という意識を根付かせていくことが大切だと考えています。
一方で後者に関しては、重要な打ち手は、配置のマネジメントと報酬のマネジメントの2つの仕組みづくりにあると言えます。
配置のマネジメントにおいては、ある程度はスタッフ間で平等に業務を分担するということはもちろん大切ですが、不満が出ないような平等な業務分担を実現することは現実的には難しいでしょうし、それだけでは本当の意味で適材適所にはならない。ここでも大事なことは、やはり平等ではなく公平で、本当に自分のやりたい業務や得意な業務ができるのであれば、たとえ業務量的には他のスタッフより多かったとしても、納得して業務を行ってもらいやすいのではないでしょうか。
加えて、さはさりながら、たとえ業務量が増えたとしても、その分、外的・内的報酬が増えれば、やはり納得して業務を行ってもらいやすいはずです。外的報酬から目を背けないことはもちろん大切ですが、内的報酬にも目を向け、業務を担うスタッフが当たり前に他のスタッフから賞賛され感謝され、さらに言えば憧れる(◯◯さんってすごいなぁ・・・)ような報酬のマネジメントを行うことも大切だと考えています。
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