ビッグワードは具体化する
医療現場でも、実に様々なビッグワードを使ったコミュニケーションが行われています。ではなぜ、人はビッグワードを使ってしまうのでしょうか。
人は弱い生き物だからビッグワードを使う
人がついビッグワードを使ってしまうのは、「ビッグワードを使うとコミュニケーションが楽になるから」です。「患者さんのQOLを高めましょう!」という意見に対して、「QOLを高めるべきじゃない!」という反論は起こりません。「責任を持って業務します!」という意見に対して、「あなたは責任を持つべきじゃない!」という反論も起こりません。ビッグワードを使えばあいまいなコミュニケーションでやり過ごすことができるので、とても楽なのです。
この背景になるのが、「人は性善説でも性悪説でもなく性弱説にもとづく」という重要な捉え方です。人は本来弱い生き物だからこそ、楽なほうに逃げてしまう。だからこそ、性弱説にもとづき、逃げ道(ビッグワード)を意図的に断たなければならないのです。
普段の業務で使っているビッグワード
知識とは、「見えないもの」を見えるようにするための道具です。これまでビッグワードという言葉を知らなかったがゆえに、数多くのあいまいなコミュニケーションが右から左に過ぎ去っていました。それが、上のようなコミュニケーションのなかに、どれだけビッグワードがあるのか、見えるようになったはずです。
学びは自組織の事例に引き寄せることが大切です。では、みなさんの普段の業務で、どのようなビッグワードを使ってしまっているかを、一度考えてみてください。ビッグワードは、日常用語だけではなく、専門用語や略語にいたるまで、あらゆる言葉があります。例えば、透析業務では毎日のように「◯◯さんのQBを30下げてください」といった「QB」という言葉が使われます。みなさんは、この言葉がなにを意味するのかわかりますか?これは、「血流量」という意味です。透析は、身体から血液を一旦取り出して浄化する治療ですが、そのスピードのことを表しています。
当然ながら、透析スタッフ間では意味を理解しているので問題ありません。ですが、例えば透析スタッフ以外の人たちと多職種で議論するとき、その人たちがQBという言葉の意味を知らなければ、透析効率や循環動態に関する議論に参加できません。このように、他の職種、分野、施設、あるいは患者さんやご家族に伝えたときに、意味を理解してもらえない言葉や違った捉え方をしてしまう言葉もビッグワードにあたります。ですので、おそらく業務のなかで何十個とビッグワードを使ってしまっているはずです。