空気の支配の恐ろしさ

人は組織の空気に支配されるということは、過去の有事の組織のなかにいるあらゆる先人たちの体験から得られる極めて重要な教訓です。

 

たとえ自分の意見と正反対のことであっても、それをせざるを得ない状況まで追い込んでしまう空気の支配の恐ろしさとは、どんなものなのでしょうか。

過去の有事が物語る「目に見えないなにか」の存在

このような空気の支配の恐ろしさを理解するためには、過去の有事から学ぶことがとても大切になります。​ここから学べることは、専門家や権力者であったとしても、空気に支配されてしまうと、不合理な決断を「せざるを得なく」なってしまうということです。これは、極めて重要な歴史の教訓です。

 

​過去の有事の体験者は、「文化」でも「風土」でも「雰囲気」でもなく、「空気」という言葉を使って当時を振り返っています。これは、当時の組織のなかの人たちが感じていた「目に見えないなにか」を表現するときに、最もふさわしい言葉が「空気」であったことを表しています。

空気はスタッフの意識や能力を超えた強力な力

この空気の支配は、決して過去の有事だけの出来事ではありません。たとえば、医療現場の多くの管理者が、スタッフとの面談に関してこのようなことを思うはずです。みんながいい事を言うのであれば、現場でそれを実践すればいいだけのこと。なのに、なぜそれができないのでしょうか。そこに、スタッフ個人個人の意識や能力の範疇を超えた強大な力が働いているとしか考えられません。それが空気の力なのです。

医療現場にある2つの世界

人を支配する空気がなぜつくられるのか。それを理解するためには、「医療現場には2つの世界がある」ということを知る必要があります。それは、「合理」の世界と「情理」の世界です。

 

合理の世界とは、「正しいかどうか」の世界。医療はエビデンスにもとづいて業務を行わなければならないことは、言うまでもありません。一方で、臨床では正しいかどうかとは全く別の情理の世界、つまりそれを「どう感じるか」の世界もあります。皆さんも、「言っていることは正しいけど、あの人にだけは言われなくないよね!」と思わず考えてしまうような相手に出会ったことがあるはず。これはまさに、「合理的には理解できるが、情理的に納得できない!」ということを意味しています。いくら正論を振りまいたところで、相手に納得してもらえなければ、絵に描いた餅になってしまうのです。

これまでの医療は、合理の世界にこだわり過ぎて、情理の世界を軽視してきたのではないでしょうか?そして、それによって不幸な人たちを生み出してきたのではないでしょうか。特にこれからのAI(人工知能)などのテクノロジーが医療そのものになっていく時代、合理の世界が得意中の得意である人工知能と人間が、生存競争を繰り広げても意味がありません。そのような不毛な対決に時間と労力を費やすのではなく、これからは情理の世界に目を向けていく必要があります。

人は弱い生き物と考える

この情理の世界の背景にあるのが、「人は性善説でも性悪説でもなく性弱説にもとづく」という考え方です。あるスタッフが正しいとわかっていることを行動できないのも、間違っているとわかっていることを行動してしまうのも、そのスタッフが悪い人なのではなく、「弱い人」だからです。したがって、組織変革を行ううえでは、性弱説にもとづいてすべてのスタッフに働きかけていかなければ判断を誤ってしまう。それでは、これからも不幸な人たちを生み続けてしまいます。

不都合な真実と向き合う

なぜ、人を動かすマネジメントだけでは意味がないのか。なぜ、いくらスタッフ個人に働きかけても意味がなかったのか。その理由がわかったはずです。空気から目を背け、これまでと同じようにスタッフ個人に働きかけてしまうと、そのスタッフと組織の空気のギャップが大きくなり、さらに本人を苦しめてしまうことにもなるのです。したがって、これまでの伝統的なマネジメントを健全に批判し、人そのものから空気へとマネジメントする対象を変えていかなければなりません。

​自施設の空気を言葉にしてみる

これから空気のマネジメントの方法を学んでいく前にまず必要なことは、「自組織の空気を知る」ことです。​目に見えない空気を認識するために重要なことは「言葉にする」こと。空気と一言で言っても、組織によって様々な種類の空気が存在します。では、皆さんの組織の空気は、どのような言葉で表現できるでしょうか?周りの仲間とともに考え、言葉にしてみてください。

なお、過去の有事から学んでいると、当事者がこぞって使うことがあります。それは「やらざるを得なかった」「せざるを得なかった」「言わざるを得なかった」という言葉です。これは、つまり「自分の意思ではない」ということを弁明していることに等しい。したがって、このような言葉が適していると感じる光景に出合ったときは、そこに行動を強要させるなんらかの空気が存在していると考えることができます。

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© 2013 by Kazuhiro Sato