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組織変革の考え方

組織変革と空気のマネジメント

リニューアル

「組織を変えなければ、現場は変わらない」

このようにとらえてみると、スタッフ(個人)一人ひとりに注目するだけでなく、組織に注目していくことも大切になります。

​「組織変革の考え方」の一連のページでは、ノンテクニカルスキルの観点から、組織変革において重要になる「空気のマネジメント」「人材マネジメント」に関する考え方についてご紹介します。

個人学習の限界と空気の支配の恐ろしさ

組織変革の考え方について学んでいくうえで、まずは以下のような場面をイメージしてみてください。

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スタッフAさんが外部の勉強会に参加して「これはぜひ、自部署の業務に取り入れていきたい!」と思えるような手技について学んできたとします。Aさんは早速、その手技の有用性などについて自部署のミーティングで説明したところ、同席していたスタッフCさんから「現在行っている手技でも特に問題はないので、これまで通りでいいんじゃないでしょうか。それに、これだけスタッフ不足で業務が忙しい中、新しい手技を取り入れる余裕なんてありませんよね」と言われてしまいました。

 

Aさんは同じく同席していたスタッフBさんに(賛同してもらいたいと)目線で訴えかけましたが、Bさんは下を向いて口を閉ざしたまま。結局、そのミーティングでは新しい手技を取り入れる提案は受け入れてもらえませんでした。

ミーティング後、Aさんは、Bさんが一言も発言しなかったことが心配になり声をかけました。すると、Bさんは、申し訳なさそうに次のようなことを伝えてくれました。

「実は、『私自身』の意見は(新しい手技を取りいれることに)賛成だったんです。けれど、Cさんの発言で他の皆も沈黙していたので、あの場の『空気』の中で、私だけが賛成に手を挙げることはできませんでした」

Aさんは、(たしかにBさんの気持ちもわかる。けれど、部署(組織)の空気のせいで正しいこと(手技)が取り入れられないのなら、何のために頑張って勉強会に参加してきたんだろう・・・。やっぱりこの部署ではやっていけないかも・・・)と心の中でつぶやき、落胆しました。

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​この例が意味するのが、「個人学習の限界」です。スタッフ個人が努力して能力を高め自己成長したとしても(もちろんそれ自体は大切なことですが)、もし組織が「このままでいい」「変わりたくない」「新しいことをやりたくない」といった現状維持・現状満足の空気に支配されていると、正しい意見なのに、いや、正しい意見だからこそ、空気に抗う意見として判定され、その意見が排除されてしまいかねません。これは、「本当に頑張っているスタッフが報われない」という状況に陥ってしまうことを意味します。私は組織をよく「ムラ」と表現しますが、正しい意見だからこそ受け入れられなかったAさんは、そのムラに幻滅し他のムラで生活する決断をして出ていってしまうかもしれません。

​これが、組織の空気の支配の恐ろしさです。目に見えない、手も触れられないその「何か」は、ともすれば「正しいことができない」「間違っているとわかっているのにやらざるを得ない」といった状況に人を陥れてしまうような強大な力を持っているのです。

個人学習の限界と空気の支配の恐ろしさ

エスカレーター問題

日常生活の中で空気が持つ強大な力を体感しやすい場所としてよく取り上げているのが、「エスカレーター」です。皆さんの地域でも、エスカレーターは片側を歩く人用に開けていないでしょうか。しかし、エスカレーターの周辺をよく見てみると、「歩かないでください」「両側に立ち止まってください」といった注意書きが貼ってあるはずです。

 

ただ、このような注意書き、言い換えれば、エスカレータームラの「公式の掟」があったとしても、明文化されてもいない、片側は歩く人用に開けるものだという「非公式の掟」である空気がエスカレータームラを支配しているために、むしろ公式の掟を守ろうとした人が肩身の狭い思いをしかねない。これは、よく考えてみると不合理なことであり、当事者からすれば納得のいかないことでしょう。

ちなみに、私はたまにプチ社会実験的に、エスカレーターの先頭であえて歩く人用に開ける側に立ち止まってみることがあるのですが、エスカレーターを降りた後に振り返ってみると、後ろの人たちは、歩く人用に開ける側ではない、つまり、通常立ち止まる側に立っていることがほとんどです。この空間では私は圧倒的な少数派ですから、たとえ公式の掟に従っていたとしても(あくまでも私は正しい行動を取っているのに)、多数派の人たちから、「あの人だけ何でわざわざあっち側に立ち止まってるんだろう?」「こっち側に立てばいいのに、空気が読めないのかなぁ」と思われたとしても、それはある意味では自然なことです*。

これが何を意味するのでしょうか。

医療現場も同様に、人が集まり組織ができている以上は、さまざまな空気がその場を支配していると言えますが、その中には、エスカレーター問題のように、合理的に間違っていることをせざるを得ない状況が、現実には往々にしてあるのではないでしょうか。そういった状況のなかで、たとえスタッフ個人個人に正しい行動を求めたとしても、本人の立場に立ってみれば、正しいことだとわかっているけれど、それができないことに悩んでしまうかもしれません。そう、先の例のBさんのように。

​だからこそ、組織の中にいる他者にある行動を求めるのであれば、本人の周りにある組織の空気に注目し、行動しにくいネガティブな空気に支配されている場合は、行動しやすいポジティブな空気に変えていくことが大切になるのです。

*ちなみに、たくさんの人がエスカレーターに乗るような状況の場合は、両側に立ち止まっている場面をよく見かけます。このような空気の支配に変われば、立ち止まっている人たちに対して、「片側を歩く人用に開けてください!」と言える人はそういないはずです(そもそも、立ち止まっている人たちには公式の掟に従っているという合理もあります)。さらにいえば、エスカレーターに乗っている人たちも、両側に立ち止まっている人々の姿に違和感は覚えないでしょう。

エスカレーター問題
人は本来弱�い生き物である

© 2013 by Kazuhiro Sato

 

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