top of page

人材マネジメントの全体像

木を見て森も見る。組織変革は2つの森を見ることが大切で、1つは「裏の森」と呼んでいる空気のマネジメント、そしてもう1つが「表の森」と呼んでいる人材マネジメントです。

 

そこで、ここからは、人材マネジメントの全体像(6つの仕組み)についてご紹介します。

リーダーシップとマネジメントの違い

​組織変革を行っていくうえで、リーダーシップとマネジメントはやはり重要な視点です。ただ、一般的に両者は混同して語られがちではないでしょうか。

 

「人を動かす」という共通の目的がある両者の違いには、いろいろなとらえ方があるかもしれませんが、私は、リーダーシップは「(直接的な)働きかけ」を通じて人を動かすものであるのに対して、マネジメントは「仕組みづくり」を通じて人を動かすものだととらえています。

このとらえ方をふまえると、例えば役職者がスタッフの面談や指導を行うというのは、マネジメントを行っているというよりも、自らの権限を基にリーダーシップを発揮しているということがわかります(直接的にスタッフに働きかけているので)。

リーダーシップとマネジメントの違い

人材マネジメントの6つの仕組み

では、役職者がマネジメントを行うとはどういうことか。人に関するマネジメント(人材マネジメント)は、6つの仕組みをつくることが大切になります。

 

スタッフの立場で考えてみましょう。スタッフは誰しもできるならば自分のやりたい業務や得意な業務をしたいと思うはずです。であれば、そのような業務ができる役割を提供する。それが、「配置」のマネジメントです。そして、「配置」された場所で自分の能力を発揮したのであれば、それを誰かに認識してもらいたいと思うでしょう。それが、「評価」のマネジメントです。さらに、自分の働きを「評価」をしてもらったのであれば、それに応じた何かを受け取りたいと思うはずです。それが「報酬」のマネジメントです。また、もし「配置」された業務でさらに自分の能力を発揮できれば、さらによい「評価」を受け、それに応じた「報酬」をもらえることになります。だからこそ、自分が成長できる環境を求めるでしょう。それが、「育成」のマネジメントです。

この「配置」「評価」「報酬」「育成」のマネジメントが「どのようにスタッフに働いてもらいたいのか?」を考えることだとすると、「どのような人にスタッフとして働いてもらいたいのか?」を考えるのが、「採用」のマネジメント。そうして、新たにムラ(自組織)で生活を始める人がいれば、そのムラから引っ越していく人もいます。だからこそ、そのことを考えるのが「退職」のマネジメントです。

​これが、人材マネジメントの全体像(6つの仕組み)です。これらの6つの仕組みは、それぞれの仕組み自体を考えるだけでなく、仕組み同士のつながり(関係性)の考えていくことが大切です(矢印)。例えば、「配置」の仕組みを変えてスタッフが新しい業務を行うことになったのであれば、業務の内容に応じて「評価」や「報酬」「育成」に関する仕組みも変えなければならないかもしれません。それぞれの仕組みがつながっているからです。また、「退職」から「採用」に矢印が向いているのは、今後ますます深刻化することが予想される人手不足の中で、いわゆる「出戻り」を積極的に受け入れなければ立ちいかなくなるのではないかという考えからです。

​なお、これら6つの仕組みを考えるうえでは、どのようなスタッフが理想なのか、つまり、「自組織のあるべきスタッフ像」を押さえておくことが大切になります。

人材マネジメントの全体像

それぞれを考えるうえでの問い

​では、自組織のあるべきスタッフ像と人材マネジメントの6つの仕組みのぞれぞれを考えるうえでの問いについてご紹介します。

【自組織のあるべきスタッフ像を考えるうえでの問い】

​まず大事なのは、自組織のあるべきスタッフ像を考えることですが、その際の問いが「それって誰のこと?」です。

 

なぜならば、あるべきスタッフ像をイメージする際、実際にロールモデルとなる身近なスタッフがいると真似することができるからです。もちろん、すべてに対して完璧なスタッフはいないかもしれません。その場合は、「治療のこの手技に関してはAさんが一番あるべきスタッフ像に近い」「患者さんへの説明の仕方はBさんがあるべきスタッフ像に近い」といったように、複数のスタッフを挙げるのも一つの方法です。

 

もちろん、「これからAさんを目指して頑張ってください」といったように全スタッフに公言すると、Aさんも迷惑かもしれませんし、他のスタッフもAさんに嫉妬してしまうかもしれませんから、あるべきスタッフ像を共有する際には工夫が必要でしょう。しかし、あるべきスタッフ像を言葉だけで説明して行動してもらうのと、実際に身近なスタッフを真似して行動してもらうのとでは、理解や納得感に大きな違いがあるのではないかと考えています。

【配置のマネジメントを考えるうえでの問い】

配置の配置のマネジメントを考えるうえでの問い、それは、スタッフの「強みや興味に応じた適材適所になってる?」です。

適したスタッフ(適材)に適した業務(適所)を行ってもらうのであれば、そもそも、スタッフ一人ひとりの強みや興味を理解しておかなければ、どのような業務に本当に向いているかを判断することが難しいはずです。例えば、Aさんは治療の手技が得意(Bさんは苦手)。対して、Bさんは患者さんへの説明が得意(Aさんは苦手)。このような場合は、治療の手技に関してはAさんが担当してBさんはサポートする。そして、患者さんへの説明に関しては、Bさんが担当してAさんはサポートする。このように考えるのが、適材適所の配置のマネジメントにおいて大事なことです。

さらに、適材適所の配置のマネジメントは、以下の3つの単位で考えることができます。

①部署単位の適材適所

スタッフAさんに今の部署から別の部署に移動してもらうといったように適材適所で配置を考えることがこれに当てはまります。

②個別業務単位の適材適所

先ほど示した「治療のある手技を行う業務はAさん」「患者さんに説明する業務はBさん」といったように適材適所で配置を考えることがこれに当てはまります。

​もちろん、全スタッフが同じ業務を行わなければならない場面もあるでしょう。しかし、人間には向き不向きがありますので、あるスタッフにとっては、自分の努力や能力では対応できない業務もあるのではないでしょうか。だからこそ個人ではなく組織単位で業務を行う意義があるわけで、あるスタッフにとって苦手な業務を得意とするスタッフもいるはずです。

③職位単位の適材適所

​一般的に、スタッフが役職者になる場合、現場経験の年数を参考にすることが多いのではないかと思いますが、現場業務を行うスタッフ(プレーヤー)とそのスタッフに動いてもらう仕組みづくりを行う役職者(マネジャー)とは、必要になるスキルセットが大きく異なることがわかります。具体的に言えば、スタッフにはよりテクニカルスキルが必要になり、役職者にはよりノンテクニカルスキルが必要になると言えます。

基本的に、スタッフとしていくら長年かけて現場経験を積み重ねても、それはプレーヤーとしての経験値を高めているのであって、マネジャーとしての経験値を高めているわけではありません。したがって、現場経験の年数では、本来、役職者としての適正を判断することは難しいはずです。

では、役職者の適正をどのような視点で判断すればいいのでしょうか。私の考え方は2つあって、1つは「ノンテクニカルスキルを身につける教育を受けてきたか?」ですが、もう1つは、やはり「実際に役職者という役割を経験してもらう」以外には難しいのではないかと考えています。それで、もし役職者としての適正がない、つまり役職者に向いていないことがわかったのであれば、役職者からスタッフに戻ればよい。

このことを世間では「降格」と表現するように、そもそも、役職者は上司、スタッフは部下といったように上下関係で語られがちです(もちろん、私も便宜的に上司、部下といった言葉を使うことはあります)。けれど、本来、両者の違いは役割の違いなのであって、縦(上下)ではなく横(対等)の関係であるべきです。

 

なので、一旦役職者として業務を行ったものの、スタッフに戻ることは「降格(格が降りる)」といったネガティブなものではなく、むしろ、その人により適正の合った役割に戻ったという意味合いで、ポジティブなものなのではないでしょうか。

【評価のマネジメントを考えるうえでの問い】

評価のマネジメントを考えるうえでの問いは、「平等ではなく公平な評価になっている?」です。

私は、評価を受ける機会は平等にすべきだけれど、その結果は公平であるべきだと考えています。なぜならば、頑張っても頑張らなくても、評価の結果が平等(AさんにもBさんにも等しい評価)であれば、頑張った方が損、それなら頑張らない方がいい」と思ったとしても、それは自然だからです。

一方で、公平な評価には、大きく2つの問題が関係してきます。1つは、どのような評価基準をつくれば公平に評価できるのかという「評価基準問題」で、もう1つは、評価者にどのような能力があれば公平に評価できるのかという「評価者問題」です。特に後者に関しては、「人(評価者)によって評価が違うので納得できません!」といった不満がよく起こるのではないかと思いますが、では、そもそも評価者が公平に評価する能力開発を十分に行っているでしょうか(したがって、これは育成のマネジメントにも関係してきます)。

 

例えば、ある治療の手技を行った際、患者さんの不安を減らすために時間をかけて説明をしたAさんと、あえて事前の説明は必要最小限に留めることで患者さんが過度に不安にならないようにしつつ、治療後にフォローの説明を行ったBさんがいた場合、どちらの行動をより高く評価するでしょうか。「治療した後からでは遅い。やはり治療前にこそ十分な説明が必要だ」と考える評価者はAさんの行動をより高く評価するでしょうし、「説明の内容や仕方によっては、むしろ患者さんの不安を高めてしまうかもしれない。それならば、余計な説明は事前には行わず、治療後に落ち着いた段階で説明すべきだ」と考える評価者はBさんの行動をより高く評価するでしょう。

もちろん、一つひとつの場面で「このように行動する」という評価基準をつくることができれば、評価者ごとの評価の違いは生じにくくなるかもしれませんが、事前にできる限り説明を受けたい患者さんもいれば、不安になるので必要以上の説明は受けたくないという患者さんもいるでしょう。したがって、このような場面においては、「患者さんが求める対応ができているか」といった評価基準にせざるを得ないかもしれません。そうすると結局、何をもって「患者さんが求める対応」とするのかは、評価者(の能力)に依存することになります。

私は、人材マネジメントの6つの仕組みづくりの中で、最も難しいのが評価のマネジメントであると考えています。なぜならば、そもそも「他者(ひと)が他者(ひと)を評価することができるのか?」という問いを考えざるを得ないからです。あくまでも仕事上の付き合いのなかで、さらには本音と建前を使い分けている空気の支配のなかで、他者のことをどれだけ理解できるのでしょうか。加えて、評価者問題にあるように、公平な評価を行うためには、相当な期間と時間、評価を行うトレーニングをしなければならないでしょうが、現実の現場業務のなかで、本当にそのようなトレーニングは可能なのでしょうか。

このようにとらえると、評価のマネジメントの難しさが理解できるはずです。

なお、私は以前から「評価不要論」を主張しています。もちろん、これは評価を全くしないということではありませんが、なぜあえてこのように主張するのかというと、評価を行うことによって、往々にしてスタッフのモチベーションを下げてしまいがちだと考えているからです。そもそも、評価は適切な外的報酬と内的報酬を提供するためであるのに、評価を行うことによって、スタッフが内的報酬を受け取れないどころか、内的報酬の貯金を減らしてしまうのならば、本末転倒になってしまいます。そのような評価ならば、やらないほうがまだましでしょう。

一方で、医療は当然患者さんが病状が改善したといった成果が重要になりますが、私はスタッフの評価に単純に成果主義を取り入れることは適切ではないと考えています。なぜならば、成果は、スタッフの行動だけでなく、さまざまな偶然も重なって生み出される場合があるととらえているからです。自分の行動はスタッフ自身でコントロールできたとしても、偶然をコントロールすることはできないと考えるのが自然です。

このように言うと、「人材マネジメントの全体像として評価のマネジメントについて説明しておきながら、評価不要論を持ち出すのは矛盾しているのでは?」と思うかもしれませんが、これは「評価は『必ず』要するものではない」という考え方ですので、前述したように、評価を全くしないというものではありません。むしろ自部署の現実とすれば、やはり慣習的にも何らかの評価を行わなければならない場合が多いでしょう。であれば、人材マネジメントの全体像の一つの仕組みづくりとして、評価のマネジメントを考えていくことが求められます。

このことを理解しつつ、私が評価というより「指標」としてすべきと考えているアイデアをお伝えします。それは、組織で作成した「問題解決プラン(シート)の枚数」です。

​組織で問題解決プランを作成するということは、現場のあるべき姿と現状のギャップを埋める取り組みを考えるということを意味します。したがって、例えばある部署が月に10枚の問題解決プランを作成した場合と20枚の問題解決プランを作成した場合では、後者のほうが現場のあるべき姿と現状のギャップを埋める行動を組織で取っているという判断ができます。

ここでのポイントは、問題解決プランの内容(質)ではなく枚数(数)を指標にすることです。そうすると、大きな問題を1つ解決しようとするのではなく、小さな問題を複数解決するプランをつくったほうがよいという動機づけになり、実際に取り組みやすくなるのではないかと考えています。それに、問題解決プランの内容(質)がどのくらいよいものなのかは、実際には判断が難しいでしょう。いくら論理的な文章で表現できたとしても、結局は、実際にやってみないとわからないからです。

 

指標が複雑だと、判断も複雑になってしまう。このようにとらえると、あえて問題解決プランの枚数(数)というシンプルな指標にしておくことが大切になるのです。

【報酬のマネジメントを考えるうえでの問い】

報酬のマネジメントを考えるうえでの問いは、「外的報酬と内的報酬は適切?」です。報酬というものを給料などの外的報酬とやりがいなどの内的報酬に分けた際、配置のマネジメントのなかでスタッフが行動し、それを評価のマネジメントのなかで認識したのであれば、その行動した分の外的報酬と内的報酬を適切に提供できているかを考えていくことになります。

あえて厳しい言い方をしますが、私はよく、「医療現場はスタッフの自己犠牲の基に成り立っている」といった言い方をしています。あくまでも一般論としてですが、患者さんの命に関わるような重要な仕事をしていながら、それとイコール以上の外的報酬と内的報酬が提供されているようには思えないからです。

 

人が働くのが生活のためであれば、その原資となる給料などの外的報酬を適切に提供することはやはり大事なので、もちろんここから目を背けるわけにはいきません。ただ、役職者が実際に外的報酬のマネジメントを行うことは難しいでしょうから、もし外的報酬が適切に提供できていないのであれば、その分、内的報酬の仕組みをつくって補わざるを得ないことになります。それができない分は、スタッフの自己犠牲で埋めなければならないからです。

​ではどうすればいいか。私が一番大事だと考えていることは、「内的報酬をスタッフ自ら掴み取ることを『邪魔する』要素を排除できる仕組みをつくる」ことです。私は、「医療者には(国家)資格がDNAとして組み込まれている」といった言い方をするのですが、元々、医療者としての資格は、患者さんを救う、患者さんを助ける、患者さんに貢献するといった考え方が軸にあると言えますが、その資格を持っているからこそ医療現場にいてできる業務があるのであれば、まさに、医療者として、資格がDNAとして組み込まれていると表現できるのです。

​そして、このことは、医療者は元々、患者さんが元気になるとか感謝されるといった内的報酬を自ら掴み取るという考え方が根本にあるということを意味します。これがあるからこそ、スタッフが自己犠牲によって業務を行えるのでしょう。ただ、実際の業務においては、内的報酬を自ら掴み取ることを邪魔するさまざまな要因もあるでしょうから、まずはそのような要因を取り除くことが、(引き算の)内的報酬のマネジメントとして求められるのです。

​例えば、スタッフがあまりに忙しそうにしている場合、患者さんはスタッフに声をかけづらく、本当は「ありがとう」という言葉を伝えたいのに、それができないかもしれません。これはつまり、忙しさにとって、内的報酬を自ら掴み取れた機会を失っていることになります。そしてこれは、報酬のマネジメントと配置(多忙な業務を改善する)のマネジメントが関係していることがわかります。

​なお、組織の2:6:2の法則を基に空気のマネジメントを行う際に重要になる「小さな成功をつくる」ということは、この内的報酬をつくるということとつながってきます。

【育成のマネジメントを考えるうえでの問い】

​育成のマネジメントを考えるうえでの問いは、「手段の目的化に陥ってない?」です。

育成のマネジメントは、大きく指導(OJT)と研修(Off- JT)に分けることができますが、いつの間にか、指導や研修を行うこと自体が目的化してしまいがちではないでしょうか。その結果、「指導をしてもスタッフがなかなか成長しない」「研修を行っても現場で学んだことを生かしてもらえない」といったことが起こるかもしれません。

​このような状況に陥らないようにするには、そもそも、何のために指導や研修を行うのかを考えることが大切です。というのは、現場である問題が起こり、その原因(の一つ)として◯◯という能力が不足していることがわかったため、その◯◯という能力を高める指導や研修を行うというのが、本来の考え方の順番であるはずです。つまり、この考え方を基に行った指導や研修であれば、実際の現場で「今」困っていること(問題)に直結することになりますから、指導や研修を受ける納得感や実感を得られやすいでしょう。逆に、それができていなければ、指導や研修を行うこと自体が目的化するということが起こりかねないのです。

【採用と退職のマネジメントを考えるうえでの問い】

採用と退職のマネジメントを考えるうえでの問いは共通していて、「組織の2:6:2の法則のどこにあたる人?」です。

例えば、「業務が忙しくて回らないので、スタッフを増やしてください!」という現場からの訴えが以前からあったことから、この人手不足時代のなかでもなんとか採用を行い、ようやく1人の医療者に入職してもらえたとします。けれど、いざ他のスタッフと一緒に働き始めると、最初は何も言わなかったものの、組織をよりよい方向へと変える取り組みに対して批判的な言動が増えていき、他のスタッフのモチベーションが次第に下がってしまいました。そして、「前(◯◯さんが入ってくる前のスタッフが少なかった時)のほうがまだ働きやすかったです・・・」といった声がスタッフから聞こえてきました。

このことが意味するのは、「スタッフを採用すると一言で言っても、推進派にあたる人が入職してくることもあれば、抵抗派にあたる人が入職してくることもありえる」ということです。両者では意味合いが大きく異なるにも関わらず。だからこそ、できる限り推進派にあたる人に入職してもらえるような採用のマネジメントが求められるのです。

なお、私は、推進派にあたる人を判断するのは2つの視点があって、一つはもちろん「あるべきスタッフ像」ですが、もう一つは、「実際に本人に行動してもらう」こと以外に難しいのではないかと考えています。なので、私が採用担当者であれば、もちろん面談も行うでしょうが、実際に自部署(組織)の業務を見学してもらった後、問題解決の六大大陸(世界地図)を教えたのち、「あなたであれば、この部署をどうやってさらによい部署に変えていきますか?実際に問題解決プランを考えて提案してみてください」と伝えるでしょう(もちろん、他のスタッフにそのことの理解を求めておく前提で)。

採用段階なので、提案レベルの行動にはなるでしょうが、この問題解決プランの内容を見てみれば、その人がその部署の【現状】をどうとらえていて、何を【目的】に、【あるべき姿】をどう描き、【問題】と【原因】は何で、どのような【対策】を取るべきなのかがわかるのです。

一方、退職のマネジメントにおいても「組織の2:6:2の法則のどこにあたる人?」という問いを立てるのは、「スタッフが退職する」と一言で言っても、例えば推進派にあたるスタッフが退職するのと、抵抗派にあたるスタッフが退職するのでは、やはり意味合いが大きく異なるからです。

​というのは、推進派にあたるスタッフが退職するというのは、プライベートに関することが理由でなければ、基本的に、「配置」「評価」「報酬」「育成」のマネジメントのどこかが、あるいはすべてが、本人の中の「譲れない最低ライン」を下回ってしまった結果だと考えることができるからです。

 

したがって、このままの仕組みであれば、また別の推進派にあたるスタッフが退職してしまうかもしれませんし、慎重派にあたるスタッフに対しても、「あんなに頑張っていた◯◯さんが退職するということは、やっぱりこの部署(組織)に問題があるんだろうな」「なのに、この部署は、このままでいいと思っているから、何も変えようとしないんだろうな」と思ってしまうようなメッセージになりません。

さらには、もし地域にそのような風評が広がってしまえば、入職したいと考える地域の医療者に自施設が選ばれなくなっていまいかねません。これは、採用のマネジメントに影響してくることを意味します。

一方で、「スタッフが退職する」と聞くとネガティブなイメージがありますが、それが抵抗派にあたるスタッフであれば、話は変わります。というのは、抵抗派にあたるスタッフが退職するのは、本人にとっても実は良いことであるはずだからです。というのは、抵抗派にあたるスタッフが退職するということは、「このままでいい」「変わりたくない」「新しいことをやりたくない」といった現状維持・現状満足のままでいられない、居心地の悪い状況に組織が変わってきたことを意味すると言えます。

ここでは組織をバスで表現してみましょう。抵抗派にあたるスタッフからすると、居心地の悪いバスに乗り続けるよりは、もっと自分にあった居心地の良いバスに乗り換えたほうがいいはずです(幸い、今は人手不足時代ですから、地域を走っているバスには、たくさんの空席があります)。それなのに、「◯◯さんにも良い所があるから・・・」と、良かれと思って抵抗派にあたるスタッフに座席を提供し続け、バスから降りることを邪魔してしまうことは、組織のためにも、他のスタッフのためにも、そして本人のためにもならないのではないでしょうか。

このように考えると、抵抗派にあたるスタッフができるだけ手前のバス停で降りることを邪魔しないようにする退職のマネジメントは、ネガティブなことではないことがわかります。

なお、下の図で退職から採用に矢印が向いているのは、「出戻り」を推奨することを意味します。人手不足時代、いくら現場から「スタッフを増やしてください!」という声が上がったとしても、地域の他の施設も同様に悩んでいるでしょうから、そう簡単にスタッフの確保はできるものではないはずです。であれば、一度退職したスタッフにもう一度戻ってきてもらうという出戻りを積極的に推進していくことが大切だと考えています。

例えば、もっと自分に合うバスに乗り換えたいと退職した慎重派にあたるスタッフがいたとします。ですが、実際に違うバスに乗ってみると、さらに居心地が悪く、自分に合わないことに気づきました。

 

「前に乗っていたバスのほうがよかったなぁ。もう一度あのバスに乗れないかなぁ・・・」

そんな時、もし前のバスに再度乗ることができたとしたら、おそらく、そのスタッフは以前よりも積極的にそのバスの目的地(あるべき姿)に向かって他のスタッフと一緒に進んでいくはずです。そのスタッフからすると、一度バスから降りた自分を受け入れてくれたわけですから。

​だからこそ、退職のマネジメントにおいて大事なことは、スタッフが退職する際に、いつでも戻ってこられる空気を演出しておくこと。

このように考えると、表の森(人材マネジメント)と裏の森(空気のマネジメント)のつながりが見えてきます。

あるべきスタッフ像と6つの仕組みを考えるうえでの問い

医療機関が医療者から選ばれる時代

​下の図からわかるように、医療現場における人手不足時代はますます深刻化することが予想されます。このことは、「医療機関が医療者を選ぶ」時代から「医療機関が医療者から選ばれる」時代へと変わっていくことを意味しています。

​私は、人材マネジメントの全体像のなかで、採用のマネジメントが一番重要だと考えています。なぜならば、本来このバスに乗らないほうがよい人をバスに乗せてしまうと、「配置」「評価」「報酬」「育成」のマネジメントで対応しようとしても限界があると言えるからです。

 

だからこそ、この人手不足時代にあっても、いや人手不足時代だからこそ、いち早くスタッフを確保したいという思いをぐっと堪えて、本当にこのバスに合う人(できるかぎり推進派にあたる人)に乗ってもらうこと(合わない人に乗ってもらわないこと)という採用のマネジメントや、本当はこのバスに乗り続けた方がよい人がバスから下りることにならない退職のマネジメントが重要になるのです。

今後の医療現場でAIの活用が重要になる理由
組織変革の考え方

© 2013 by Kazuhiro Sato

 

bottom of page