

生成AI×ノンテクニカルスキル
ノンテクニカルスキルの観点から考える医療現場での生成AIの活用
「遂に、AIがノンテクニカルスキルを発揮できる時代が来た」
人間のように自然な会話ができる生成AIの登場によって、今後ますます人手不足が深刻化することが予想される医療現場を大きく変えていくことが期待できるようになりました。
この一連のページでは、医療現場での生成AIの活用について考えていきます。その鍵となるのが、ノンテクニカルスキルです。
生成AIを活用した問題解決プラン作成の(半)自動化
現在、さまざまな業界で生成AIの活用について議論が進んでいますが、もちろん医療業界も例外ではありません。ただ、実際の業務にどのように生成AIを取り入れていけば良いのか、なかなか具体的にイメージしにくいのではないでしょうか。
そこで、私は生成AIを活用して問題解決プランの作成を(半)自動化する方法を提案します。具体的には、スタッフ(人間側)が入力した【目的】【現状】に関する情報を基に、生成AIに【あるべき姿】【問題】【原因】【対策】に関する情報を生成してもらうというものです。百聞は一見にしかず。「ある治療における物品間違えのインシデント」という架空の例を用いた次のデモ(動画)をご覧ください。
(一度全体の生成のスピードを見ていただき、それから前の内容に戻ってそれぞれの項目を示しますので、動画を止めて確認してみてください)
【ある治療における物品間違えのインシデント】
目的:次回からの治療において、指示の変更に適切に対応した治療を行う
現状:治療開始前の申し送りの際、治療時に患者Aさんに使用する皮膚接触用のフィルムが、今回よりBからCに変更になったという情報がスタッフ全体に共有された。以前からフィルムBの使用時にAさんが痒みを訴えることがあったため、痒みの軽減が期待できるフィルムCを使用することになった経緯がある。しかし、変更に関する情報自体はスタッフ全体に共有されたものの、誰が準備を担当するかは指示しておらず、他のスタッフは誰かが準備してくれるものだと考えていた。担当スタッフやダブルチェックを行ったスタッフは、すでにフィルムCが用意されているものだと思い込んだまま治療を開始した。Aさんの治療開始後30分経過した際、フィルムCではなく従来から使用しているフィルムBが使用されていることを担当スタッフが発見。すぐにフィルムCに交換して治療を再開、その後のAさんの状態変化は、通常の治療と同様であった。

生成AIというコミュニケーションのツールとスキル
突き詰めると、生成AIはコミュニケーションの「ツール」と言えます。ただ、いくら優れたツールがあったとしても、それを使う人間側の「スキル」がなければ、いわゆる「宝の持ち腐れ」になってしまいます。それが、ノンテクニカルスキル。つまり、ツール(生成AI)とスキル(ノンテクニカルスキル)は本来はセットであり、不可分の関係としてとらえるべきものであることがわかります。
にも関わらず、生成AIに関する世の中の議論は主にツールについてであり、人間側のスキルについてはあまり議論されていないのではないでしょうか。その結果、試しに生成AIを使ってみたものの、どのようなコミュニケーションの場面で使えばいいかがよくわからず、すぐに「生成AIは使えない」といった結論を出してしまいかねません。
私は、これから医療機関(組織)は大きく2つに分かれていくと考えています。それは、(生成)AIを使いこなす医療機関と、AIを使いこなせない医療機関です。これからさらに生成AIが発展していくことが予想でき、医療現場はますます人手不足が深刻化することも予想できるなかでは、好むと好まざるとに関わらず、前者(AIを使いこなす医療機関)を目指していかざるを得ないでしょう。であれば、生成AIとは何か、どのように操作するのかといったツールに関する理解はもちろん大切ですが、同時に、そのツールを現場業務でのコミュニケーションで活用していくためのスキルを身につけていくことが大切なのです。

「遂に、AIがノンテクニカルスキルを発揮できる時代が来た」ってどういう意味?
冒頭で述べたように、ノンテクニカルスキルは、人間だけではなく、生成AIも発揮することができる時代が来ました。というのは、突き詰めると、ノンテクニカルスキルは「言葉や行動で人を動かす」世界だと言えるからです。したがって、人間のように自然な会話ができる生成AIが登場したということは、生成AIが言葉を使ってノンテクニカルスキルを発揮できることを意味するのです。
人間のコミュニケーションが言葉を使って行われる以上、生成AIは一時的なブームで終わるものではなく、いずれ、言葉を使って仕事を行うあらゆる業界に浸透していくと考えられます。

生成AIを活用する 際の2つの領域
世の中の生成AIの活用に関する議論では、「生成AIを活用することによって、◯◯に関する業務時間を50%削減することができました」といったように、人間が行っている業務を生成AIが代わりに行うことが前提にあることが多いのではないでしょうか。これを、「削減系」の領域と呼んでいます。もちろん、多忙なスタッフの負担を減らし余裕を持って業務を行ってもらうためには、削減系の領域に目を向けることは大切です。
一方で、削減系の領域だけでは、同じ業務を行う主体が人間から生成AIに変わっただけなので、新たな価値を生み出しているとは言えないことになります。だからこそ、これまで人間だけでは考えつかなかった新しい価値をつくり出していく「創造系」の領域にも目を向けていくことが大切になります。
私は、生成AIを「思考の自動車」と表現していますが、削減系の領域が「楽に早く目的地にたどりつく」ようになることだとすると、創造系の領域は「これまで行ったことのない目的地にたどりつく」ようになることだととらえています。
なお、問題解決プラン作成の自動化に関しては、「30分の会議を5分で終えることができた」といったように削減系の領域においても期待できますが、「自分たちだけでは考えつかなかったあるべき姿を描くことができた」といったように、創造系の領域に対してより大きな期待を持っています。

生成AIを活用する目的を押さえる
また、同じく世の中の生成AIの活用に関する議論では、「正しい答えを得る」ことを生成AIを活用する(暗黙的に)目的としていることが多いのではないでしょうか。ただ、現在の大規模言語モデルが「次の単語(トークン)を予測する」ことによって自然な会話を実現しているのであれば、予測にとって正しい答えを得ることができることもあれば、予測だからこそ間違った答えを得てしまうこともあるでしょう。
このことに対して私は、「(人間が)考えるための選択肢を増やす」ことを生成AIを活用する目的にするということを提案しています。問題解決プラン作成の(半)自動化に関しても、生成AIが生成した【あるべき姿】【問題】【原因】【対策】に関する情報は正しい答えとしてではなく、あくまでもスタッフが考えるための選択肢を増やすために活用していくことが大切になります。
つまりこれは、これらの情報を考える「叩き台」とすることを意味します。ゼロから物事を考えることは苦手でも、何か叩き台があれば、その内容を基に物事を考えやすくなるものではないでしょうか。
「では、生成AIが生成した【あるべき姿】に関する情報を叩き台として考えていきましょう。まずは、この内容に関して、追加や修正する箇所はありませんか?」

続きは後日公開を予定しています。
